マジシャンになるために大切なことは、トークです。しかし、この当たり前のことが意外と難しかったりします。
マジックにかぎらず、全てのビジネス、日常生活でトークは大切です。自分の思いを的確に話すことによって、ようやく相手に思いを伝えることができるからです。
そして、マジックでは特にこの「トーク技術」が重要になってきます。マジックは人をダマす芸です。相手に錯覚して思い込んでもらわなければ、マジックの成功率は下がります。
錯覚して思い込んでもらうためには、自分の手の平に相手を乗せて、コントロールする必要があります。しかし、滑舌が悪かったり、早口であったり、声が小さかったりすると、相手をうまくコントロールすることができません。
コントロールできなと、相手が思うように行動してくれず、結果としてマジックが失敗してしまうこともあり得ます。
上手いマジシャンは、トークによって相手をグイグイと引きつけ、自分の思いどおりに相手をコントロールしてマジックを成功させます。
まったく話ができなかった絶望感
私がマジシャンになりたてのころ、なったはいいが、どうやって仕事を取れば良いのか分からず、右往左往していました。そんなとき、運良く銀座のマジックバーでマジシャンを募集しているという話があり、入ることができました。
しかし、実際に入ってからが大変でした。
銀座のマジックバーですから、お客様は社会人としての実績を積まれた方ばかりで、見る目も肥えています。
その当時、私は24歳でした。「東京マジック」という手品道具の通信販売会社に1年努めて脱サラした直後です。しかし、パフォーマンス経験は多少なりともあったので、何とかなると軽い気持ちでいました。
ところが実際に入ってみると、マジックどころか、まともに話すことさえできませんでした。あまりの出来なさ具合に絶望しました。
トークは立派な技術職
そこで、「このままではマズい!」と思い、トークの勉強をすることにしました。ただ、どうやって学べばよいのか分からなかったので、インターネットで見つけた結婚式の司会者養成講座を受講することにしました。
そこでは、まず大きな声で滑舌よくしっかりと話すことが大切であると習いました。勉強方法は結婚式の司会者養成コースでしたので、披露宴の台本にそって授業は進んでいきます。
現役の司会者が、声の出し方や滑舌のよい話し方、目線、表情の作り方にいたるまで教えくれます。授業は、何度も同じフレーズを繰り返し練習して、話のクセを矯正していきます。
人のクセは深くしみ付いています。1,2回の練習では直りません。
そこで、例えば「新郎新婦のご入場です」というフレーズを何十回も練習します。たったこれだけの1フレーズでも、声の大きさや語尾を上げた場合、下げた場合で、相手への聞こえ方が全く異なってきます。
司会者は、同じことを何度もくり返し言うのではなく、たった1回のトークで相手を説得する技術が必要です。少ない言葉数で相手をしっかり説得するには、文章を構成する1フレーズを、おろそかにしてはいけないのです。
トークでもっとも重用な「気持ち」とは
確実に相手に話の内容を伝えるには、文章を構成するそれぞれのフレーズが相手に伝わるように、声のトーンを調整して話す必要があります。
そして、ここでいちばん大切なことは、トークに自分の気持ちをしっかりと乗せることです。
「おめでとうございます」と話すにしても、そっぽを向いて言うのと、相手の目をみて心の底から伝えるのでは、受け取られ方が全く違ってきます。
気持ちを込めて話す練習は、今すぐ実践できます。親や家族、友達、恋人など、あたりまえの関係になっている方に、気持ちを込めて話してみると、よい練習になります。
最初は恥ずかしいかもしれませんが、トークの練習でお互いの関係が今まで以上に良好になるのであれば、練習する価値があるのではないでしょうか。
トーク技術は日頃の意識次第でいくらでも上達します。まずは面倒でも、いちど話す内容を原稿におこします。そして声に出し、フレーズ毎の意味をしっかりと考えなら、気持ちを乗せて話す練習を繰り返して下さい。
このとき、「少し遅すぎるかな」と思うぐらいのスピードで練習します。本番ではどうしても早口になるので、練習では遅すぎるぐらいがちょうどよいです。
練習を繰り返せば、うまく話せないポイントが見えてきます。あとはそこをくり返し声に出して話しこみます。
こうして練習を繰り返せば、自信がつきます。自信が付けば、本番での緊張感にも打ち勝つことができます。平常心で本番に臨むことができれば、急なハプニングが起きても冷静に対処できます。
トークはできて当たり前ではありません。話すことを専門とする職業があることを考えれば、立派な技術職です。普通の人が人前で話すのが苦手なのは当然です。
トークは日頃の意識次第で上達します。あきらめずに練習をくり返して苦手意識を克服して下さい。