大がかりな機材を用いて行うイリュージョンマジックにおいて、もっともスリルがある演目の一つに「インペイルドイリュージョン」が挙げられます。
インペイルドイリュージョンとは、人が串刺しになるマジックです。
イリュージョンマジックショーでは、不思議さの他にもスリルや迫力を演出するため、人を使っての切断や貫通現象が多く演じられます。
しかし、こういった危険に見えるほとんどのイリュージョンは、直接的に演じられることはありません。
インペイルドイリュージョンがスリル満点な理由
例えば、人体切断の場合は人が箱に入った状態で行われます。首に剣を刺すイリュージョンも、首枷を装着した状態で行います。
その理由は、もちろんタネも仕掛けもあるマジックだからです。箱も首枷もない状態で行ってしまうと、本当に死んでしまいます。
ところが、インペイルドイリュージョンにおいては、箱や首枷といった間接的ギミックを使うことなく演じることができます。
もちろん、マジックなので仕掛けがあり一応、安全です。
ただ、他の多くのイリュージョンマジックと違うところは、怪しまれる間接的ギミックを使わないで行えるところにあります。
私はプロのマジシャンです。イリュージョンマジックも演じます。こういった記事を書いているぐらいなので、もちろんインペイルドイリュージョンも演じます。
演じていて思うことは、やはり他のイリュージョンマジックと比べて、お客様の反応が明らかに違うことです。「えっ!本当にそのままやっちゃうの?」と不安感漂う視線を感じます。
なかには目線をそらしてしまう人もいるぐらいです。
そのため、インペイルドイリュージョンは、子供が多いショーや教育現場で演じることはありません。いくら迫力がありウケるとはいっても、現象があまりにも直接的であり、子供には刺激が強すぎるからです。
しかし、要望があればもちろん演じます。
特にハロウィンとの相性は抜群で、この時期に限っては、クライアント側から「演じてほしい」と頼まれるぐらいです。
インペイルドイリュージョンはトレーニングが重要
インペイルドイリュージョンは、見た目は危険ですが、実際にも危険です。マジックなので安全性は考慮されていますが、それでも危険です。失敗すると本当に怪我をします。
そのため、インペイルドイリュージョンを行うには、多くのトレーニングを積むことが重要になります。
まず、刺される側のアシスタントです。アシスタントは体がしなやかで、尚且つ、腹筋、背筋の力がなければ演じることはできません。
より不思議に見せるには、バランス感覚とシルエットが重要になるからです。また、タネがあるとは言っても、そのほとんどはアシスタントの身体的能力に依存しているからです。
いっぽう、刺す側のマジシャンは、筋力と集中力が必要です。先ず、アシスタントを軽々と持ち上げることができなければ、演じることすらできません。
きちんと持ち上げられなければ、アシスタントを適正なポジションにを置くことができず、本当に危険です。
また、集中して行わなければ、突き刺さるタイミングがズレてしまい、不思議さが半減してしまいます。これでは、せっかくのイリュージョンも台無です。
このように、インペイルドイリュージョンは、マジシャンとアシスタントの体力と信頼関係、意思疎通がなければ演じることができない、難易度が高いイリュージョンマジックです。
マジックショー以外でのインペイルドイリュージョンの活用例
インペイルドイリュージョンは、直接的でとても不思議でスリルがあるマジックです。そのため、テレビ番組や、映画、舞台の演出においてもオフォアーがあります。
ただ、前述のとおりタネを教えていきなりできるイリュージョンではありません。そのため、これらの依頼を受けた場合は、危険性を伝え、しっかりとトレーニングを行ってから演じることになります。
以前、映画でのシーンで「インペイルドイリュージョンを使いたい」とオファーを頂いたことがあります。このときは、台本もしっかりとしており、女優さんの覚悟もできていたので依頼をお受けしました。
それでも、いざトレーニングとなると想像以上に大変だったようで、できるようになるまで何日にもわたって繰り返し練習をしました。
さらに、撮影本番ではさまざまな角度からの撮影やNGなども重なり、一日の間に、このキツいイリュージョンを何十回も演じることになりました。
通常のマジックショーでは1回演じればよい訳ですが、映画の撮影となると、良い画が撮れるまで何度も行わなければなりません。
これには女優さんも相当堪えたようで、撮影後は動けなくなっていました。私も腕がパンパンに膨れ上がり、1週間ぐらいは物を持つと腕がプルプルと震えました。
インペイルドイリュージョンは難易度が高く、危険がともなうマジックです。
しかし、しっかりとトレーニングを積んでから行うインペイルドイリュージョンは、本当に不思議で美しいです。
そして、そうであるからこそ、マジックショーのみならず映画やテレビ番組の演出の需要もあるのだと思います。
頻繁に依頼があるイリュージョンではありませんが、いつでも演じられるように体力を維持し、機材をメンテナンスしていきたいと思います。